電脳文芸同人誌 鐘楼

我、鐘を鳴らす者也。此の音、鐘を聴いた者の音也。

第九鐘 対岸の明かり


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 隣の芝が青いとうらやましいと言うが、果たして夜でも同じことを思うだろうか。

いま、世は暗く、溝は深く、底のほうでは何やらさわがしい。蟲の蠢きが如く、そこに行くのは恐ろしい。

 暴動や、テロや、戦争を経験して思うのは、だれも平和を望んではいないということだ。だれも、である。平和を望むと、祈りを捧げなければならんくなる。祈りを仕事にしていなければ、そんな徒労は誰もやるまい。皆さんがお分かりだろう。

 老人と若者の対立は深まる。そして緊張が高まると、あとはお分かりだろう。アメリカ、デトロイト旧約聖書の対立。貴族と市民。

 古木は延命を望み、若葉は光を求める。歴史が証明するところによれば、勝者による正義がいつの時代も新秩序になってきた。風がそよぐだろう。人の手によるものか、自然の力か。いずれにせよ、地球上の生命体同士の、小さな淘汰の物語だ。太陽が肥大して地球を飲み込むまでのつなぎだ。その永遠不変の未来を、ときに人類は忘れるらしい。

 

 

人たちに銀のリング握りしめたがいにかけあう軍手はどろで

文字よりも戦闘機に乗りひとり見る誰もいない夏の青空

間違える砂利道でわかったいくつものギザギザナイフ葉の間から

黒猫とよみがえる街台地踏む現実を告げる出会った時から

測れるが遠く思えるお願いがあなたの心に涙も出るよ

一人旅ニュースを見ていた介護する残るぬくもり親父の涙

 

 

 

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一二三六五(ヒフミロクゴ)

略歴

文芸冊子『退役軍人で作る国文の団』初代編集長。『世界詩人機関(WPO)』五代目事務総長。自身の従軍経験をもとに創作する『銃の世代』を代表する作家として知られている。文芸同人『死と灰』では随筆コーナーを担当。短歌王と呼ばれた歌人、佐々木歌麿に師事した。高田ピーマンとの『文学解放論争』の対立は有名。